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会長より

大学教育学会2023・24年度会長就任にあたってのご挨拶

松下佳代(京都大学)

 このたび、2023・24年度の大学教育学会会長に就任いたしました松下佳代です。前年度まで3期にわたって会長を務めてくださった山田礼子先生からバトンを受け取りました。
 今は大学受難の時代です。
 6月初めに、2022年の出生数が前年より4万875人少ない77万747人だったという報道がありました。ということは、2041年の18歳人口が77万人を割り込むのはほぼ確実です。第2次ベビーブーマーが大学入学期を迎えた1992年は205万人でしたから、50年の間に、半分どころか3分の1近くまで減少することになります。すでに、いくつもの大学が募集停止・閉鎖に追い込まれており、また、今年2月に出された中央教育審議会大学分科会「学修者本位の大学教育の実現に向けた今後の振興方策について」(審議まとめ)でも、大学の経営破綻をどう避けるか、撤退・破綻が避けられない場合に学生をどう保護するか、が議論されています。
 一方で、生成AIの登場も、大学教育に大きな衝撃をもたらしています。プリンストン大学の研究者らのチームによれば、生成AIの影響を受けやすい職業のトップ10のうち8つまでを人文・社会科学系の教職が占めています。また、6月初めには、大規模なオンライン大学が日本でも設立されることが発表されました。コロナ禍を経て、オンライン授業・教育が私たちにとって身近なものになっています。
 このような少子化やデジタル・テクノロジーの発展が、これからの大学教育のあり方を大きく変えていくことは間違いありません。一方、大学にとって、これまで以上に教育の質が問われる時代になっていることも確かです。本学会の会員は何らかの形で大学教育にかかわっておられるはずです。また、所属される大学で、大学教育や大学の経営の改善に関与されている方も少なくないことでしょう。本学会が、大学をめぐるマクロな動向を見据えつつ大学教育をよりよいものにしていくために、大学教育についての研究的知見の共有・交流の場になることはもちろん、大学教育研究力を向上させる場や、大学教育にかかわるなかでの悩みや喜びを交換できる場にもなるよう、力を尽くしてまいりたいと思います。

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 本学会は、小笠原正明先生の会長時代に一般社団法人化され、山田会長時代には、一般社団法人としての運営体制の整備、大学教育研究力向上の取り組み、研究倫理基準の策定、大学教育学会誌のオープンアクセス化、ウェブサイトの刷新などが進められてきました。それらを受けて今期の抱負を述べたいと思います。
 第一に運営体制の改革です。教員の働き方改革が話題になっていますが、大学教職員も例外ではありません。教育、研究以外の管理運営、社会貢献にも労力と時間が取られ、なかなか学会の運営に割く余裕がなくなってきているという実状があります。
 本学会には、52名の代議員、25名の理事の上に、会長、副会長、常務理事、事務局から構成される執行役員会が置かれています。今期は、副会長を佐藤浩章氏、常務理事を山田礼子氏、杉谷祐美子氏、中井俊樹氏、事務局長を山内正平氏、事務局次長を堀井祐介氏、幹事を斎藤有吾氏にお引き受けいただきました。山内事務局長については、長らく事務局長を務めていただいた後、いったん事務局次長になっておられたのですが、今期はあらためて事務局長に復帰していただくことになりました。さまざまな方に事務局長を依頼するなかで、いかに本学会の運営が複雑で大変になっているか、大学教職員が多忙化しているかをあらためて痛感させられました。
 学会を持続的・発展的に運営していくためには、学会の仕事をスリム化・効率化すること、それをなるべく多くの会員によって担っていくことが必要です。各種委員会や大学教育学会誌の指名査読者、大会・課題研究集会の運営などでの会員のみなさまのご協力をよろしくお願いします。とりわけ大会・課題研究集会については、開催校の負担をなるべく小さくして持ち回り開催がしやすくなるよう工夫したいと考えています。開催方式も、課題研究集会については、開催校が希望すればオンライン開催を継続するということも視野に入れてよいかと思います。
 第二には、長らく課題となっている国際発信力の強化です。こちらは前期にも、大学教育学会誌の英文要旨を充実させるなどの改革が行われましたが、まだ十分とはいえない状況です。停滞しているAAC&U(American Association of Colleges & Universities)との連携、ここ数年、協力してきた韓国教養教育学会主催のInternational Forum on Liberal Educationへの関わり方についても見直しが必要な時期に来ています。国際委員会の活動については山田前会長が担当常務理事としてリーダーシップをとってくださる予定です。
 大学受難の時代だからこそ、大学教育学会に参加したおかげで新しい知見が得られた、仲間ができた、元気が出たと感じられるような学会活動を展開していければ、と願っています。会員、理事、代議員のみなさまとのコミュニケーションを大事にしながら、持続的で発展的な学会として、大学教育研究・実践を先導していきたいと思います。 
 この学会に集うみなさまが、それぞれの形で学会活動をより面白く活気あるものに創り上げていってくださいますようお願い申し上げます。

2023年6月13日